2010年3月6日土曜日

防水2次振動板

これまで、
20年近く自動車や航空関係で多数のシール(密封)設計をしてきた経験もあり
当初携帯電話の防水レベルを上げるのは「たやすいだろう」と思っていました。

なので開発にあたっては、
まず生産性向上の為にケースとシールの一体成型からスタートしました。
旧来の手法では、細いO-リングと呼ばれるゴム部品を
熟練作業者が組みつけていましたが、
「熟練を要する作業」は組み立てから排除するのが
品質アップとコストダウンの基本です。
この部分は優秀なゴム成型メーカーさんに出会えた関係でクリアしました。


次のハードルが音響部。まずスピーカーに取り掛かりました。
開発の時点で、振動板部を防水にした防水スピーカーは存在していました。
しかし、高コストで低音響性能、低防水レベルな防水スピーカーではなく、
高防水レベルでも音響性能が非防水スピーカーと遜色無い、そんなスピーカーを目指しました。

現在販売中の通気性防水膜を使用する旧来の防水構造では、
音波が多数の狭い穴を通らなければいけない為
当然、非防水モデルに対し音響性能は悪いのです。


ここで自動車メーカーでの経験が生きました。
某自動車メーカーのエンジン設計室で開発設計をしていた際、
吸排気の性能を上げる為に使用される「脈動」という現象を通じて
音波のような粗密波の挙動イメージがある程度掴めていました。

「音波で動くように保持された板をスピーカーの前に置いても、
音響性能には影響出ないのではないか」
そう考え、スピーカーの振動板と同様の構造をスピーカーの前に設置し、実験。
試作品の音を自分の耳で聞いた時、「勝ったな」と思いましたね^^

その後、音響特性を取ってもらうと、担当者さんから
「違いが無さ過ぎて、どちらがどちらか分からない」との嬉しい一言。


しかし、このアイデアを特許出願しようとした時、
先願としてこの構造が出てました><
特開平11-69472号広報 ユニデンさんです。


やられた~と一瞬思いましたが、なにやら膜を貼ってるだけのような・・・
私は耐圧構造を前提で開発していたので、「勝てるかな」と。

開発を始めた段階から腕時計の耐水性能が目標でしたので、
ターゲットは20気圧防水!
膜を貼っただけでは当然持ちません。

こちらは2次振動膜が水圧を受けた時に、
その水圧を受け止めるバックアップ構造を用意していました。


さて、音響も水圧もクリアして、駒が揃って来たところで、
新たな問題の発覚です><
ま~予想はしてましたし、ユニデンさんの特許でも挙げられていました。
温度による内部圧力の変動です。

完全防水。つまりは完全気密構造は外部と空気の出入りがありません。
炎天下の車のダッシュボード上とか富士山の山頂とかでは、
ポテトチップスの袋よろしくパンパンになっちゃうわけです。。。

通気性の防水膜なら文字通り通気するので問題無いと。
ユニデンさんの特許でもケース内圧力の調整用に、マイク部分には通気性の防水膜を使用してます^^;


この問題の時点で、仕事以前のトラブル発生。
会社から私の開発の商品化予定が無いと。

いろいろ悩みましたが、
商品化予定の無いところで特許を出し続けるのは
この完全防水携帯を世に広めるという目的を妨害すると判断し、退職。
転職先を探すもリーマンショックです。100年に一度の不況スタートですよ。

転職先が無いならしょうがないということで、
その後半年はオフロードサーキットのデザインを担当してました。
デザイン担当というと格好いいですが、設計・制作・管理全てなので
まあ、土木作業ってとこです^^

しかし、この半年のリフレッシュ効果なのか、
今回の特許となる構造を思いついた訳です。

では、次回は特許権を取得した構造について書きます☆

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