「日本には世界に先駆けた技術がある」
と言われます。
しかし、
これまで国内の大手自動車メーカーや大手電機メーカー
大手重工メーカーの開発部門で働いた印象では、
残念ながらそれも過去のように感じます。
私が20年前に設計を学んだのは
大手自動車メーカーさんでした。
数多くの部品を組み合わせて人命を乗せ
様々な場所で使用される自動車は
設計の内容も厳しいもので、
「最悪の組み合わせでも性能をクリアすること」
が上司の口癖でした。
では「最悪」とは何か。
ここを見極めるのが設計者の仕事です。
・使用環境
・部品の組み合わせ
・ユーザーの操作
等の最悪な条件に対して
開発部品が正常に機能するように仕様を設定します。
たとえば自動車なら、
・アラスカの冬にエンジン始動後アクセル全開で走行
・外気温40度でアクセル全開の連続走行
・ハンドルやレバーを力任せに回しても壊れない
・部品のバラつき範囲(公差)で規定性能を下回らない
などです。
この「最悪」の条件設定が外れていると
市場に出た製品は問題が発覚し
「不良品」と呼ばれることになります。
自動車では不良品は人命に直結します。
これまでの日本は、この
「最悪」の見極めに優れていたと言えます。
これまでは。
実は最初に開発設計を教わった自動車メーカーさんに
10年後、再度派遣社員として勤務する機会がありました。
そこで驚いたのは
「設計部門で公差設計をしていない」現実です。
公差設計は、私がその自動車メーカーさんで
一番時間を費やして学んだ技術でした。
使用環境等の設定はあまり変化しませんが、
構造を考えたり、強度計算をしたり、評価計画を立てたり、
部品の手配をしたりと同様に
公差設計は毎回必須のはず。
いつの間に消滅してしまったのか・・・
製造技術が向上したとはいえ、
製作される部品には全てバラつきがあります。
そのバラつきを公差として許容し、
製品として成立させる公差の設定は重要です。
この公差設定を無視した場合、
「最悪」の組み合わせでは
・組み立たない
・性能が出ない
等の問題が出ます。
では何故いま製品として出来ているのか。
それは生産技術側で寸法を
「すり合わせて」いるからです。
設計から生産側には物理的に無理な要求も出ます。
そんな理不尽をマンパワーで解決しているのが現状。
しかも
このすり合わせ作業は莫大な「手間」を要します。
公差が決まっていれば1回で終わるはずの作業なのに。
これは傍からみていてかなり残念な状況です。
設計側に「それ設計ミスですよ」と指摘したこともありますが、
プライドの高い大手企業の設計担当者は
だいたいノーリアクションでしたね。
「黙って言うとおりやれ」なんて
ゴリ押ししてくる某T自動車の係長もいました。
しかし、実はこれは現在日本の
全ての工業製品に当てはまる状況です。
電機・携帯メーカーでも同様でした・・・
「結果出来てるならいいじゃない」
と言われる方も居るかもしれません。
しかし、この結果しか無い状況では
トラブルが発生した時に問題にたどり着くまで
時間がかかります。
何処がどうなってるのか判らないわけですから。
しかも、次の似たような新型でも
一からすりあわせ。
毎回設計の意図に関係なく数値は変化します。
それに一番問題なのは、
仕様が不明確だと性能を上げる方向性が見えません。
設計とは製品の仕様を決める作業です。
設計者は周囲の状況を把握し
方向性を見出さねばなりません。
たとえば
今あなたはどこかに立っています。
周りは霧で見えません。
どちらに踏み出せば目的の方向に行けるでしょうか。
それは霧が晴れてみなければ、
更にはその先の目的を知らなければ
動けないでしょう。
立つことは出来ても。
しかも
今立っている場所は
先人達が導いてくれた場所です。
自ら目的を持って探し当てて
そこに立っている人は少ないでしょう。
今の日本の工業製品の多くは
足元を行ったり来たりしてるように見えます。
本当に必要なものはそれですか?
違いますよね。
我々はもう一度
自らの立ち位置を確認し
進むべき方向を見定める必要があります。
先輩の技術を使い廻している場合ではありません。
しかし、
当然この状況に危機を感じている方もたくさん居ます。
公差設計を指導して戴ける
プラーナーさんのセミナー(講習会)に参加した際には
志の高い企業の皆さんといい時間を共有出来ました。
昔の日本にあって今の日本に無いもの。
これを取り戻すことが日本の技術力・設計力に重要です。
海外のメーカーは確実に力をつけてきていますしね。
私が製品化したいと考えている高度防水携帯も
この「公差設計」が必須。
忘れ物を取り戻して
なるべく幸せな未来に向かいたいと思う
今日この頃であります☆
2010年8月10日火曜日
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